カヌー科学館

 No.1 ホワイト・ウォーターと浮力

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 1  ホワイト・ウォーターとは

 カヌーで川下りをする人なら聞きなじみの言葉、
 速い流れで、岩や落ち込みで空気が水に混入し、白く見える事から そう呼ばれる。

 多摩川・沢井付近のミソギの瀬、プレイスポットとして有名な場所。
 落差1mほどの最後に段差が大きくウエーブ、ホールを形成し、水に泡が混じり真っ白になっている。
 

 2 水の中の泡の混在比率

 水の中に気泡がどのくらいの割合で混在することが出来るかWEBで検索したが見付けることが出来ず
 沈したときの水中写真で泡が写っている画像から推定できないか試みた。
 ミソギの瀬、上写真の中央でサーフィンをしていて沈した直後の動画からキャプチャした。

 

 意外と大きな泡が混在しているのが写っている。
 青い四角 単位寸法 100 の中に写っている泡を観測すると、
 後にオレンジに見える船体、約40cmほどの間に様々な大きさの泡が無数に存在する。
 距離は船体を腕で押さえていることから、寸法を割り出した。

 カメラから泡までの距離によっても泡の直径が変わって写り、数量も計数困難なので
 これから泡の比率を推定するのは困難と判断した。

 次に、ペットボトルの中に水を入れ、一部空気を残して蓋をした物を、激しく振って混在させた状態で
 ストロボ撮影してみた。 ( 下写真は左右に振っている2枚を合成したイメージ )



 上のように激しく左右に振っている途中で撮影すると、比較的均一に泡が混在した画像を得られた。
 振る前に上部に溜まった空気の量と、泡の混在している範囲の比率から、この状態での泡混在比率を求めた。



 簡単のため円柱と見なし高さの比率から泡の比率を求めると 17%となった。
 実際のホワイトウォーターでは落差や水量、障害物等で状況はまちまちと思われるがペットボトルの中の
 泡の分布状態も実際には多数の沈経験からありうると思われる。

 3 ホワイト・ウォーターによるカヌーの浮力の影響

 今までの経験で、落ち込み直後に通常以上に舟が沈んだ感覚になったことがある。
 落差を落ちた衝撃による沈下の影響も考えられるが。
 泡の混在比率を求めたので、これが浮力にどの程度影響するか考察する。

 バンディットのシミュレーションで求めた舟の形状は下図である。



 水に浮かべ、乗った状況から 概略底から15cmが沈んだ状態と見える。


 形状に15cm沈んだ状態での水の浮力を求めると

 上図のように底チューブとサイドチューブ2本を簡単のため直方体に近似して体積を求める
 曲線部分は、長さをやや短めに設定することで補正した。
 水色部分が底チューブ、ピンク部分がサイドチューブの体積換算範囲である。
 
  幅 [m] 長さ [m] 高さ [m] 体積 [m3] 浮力 [kg]
底チューブ  0.36 1.7 0.15 0.092 92
サイドチューブ2本 0.22x2 1.5 0.06 0.040 40

 浮力合計は132kgとなり、艇9kg、搭乗者70kg、衣服5kg、荷物5kgの合計89kgと本来釣り合うはずだが
 水深が目測な事、直方体近似なので浮力が多めに出ているが、ほぼ納得できる値である。

 次がホワイトウォーターで浮力の影響があると思われる顕著な画像である。
 舟の7割方が水中にあるように見える。
 ホワイトウォーターによる浮力の減少と同時に、段差約50cmの落ち込みを落下した重力加速度による力や
 上流から後部に流入している水流の力も何割か含まれていると思われる。



 
 この状態の浮力を概略算出すると
 
  幅 [m] 長さ [m] 高さ [m] 体積 [m3] 浮力(水) [kg]
底チューブ  0.36 1.7 0.18 0.110 110
サイドチューブ2本 0.22x2 1.8 0.27 0.214 214

 水だと324kgの浮力があるはずだが、舟や搭乗者の総重量89kgに対し、
 静水時の浮力 132kgに対し、192kgの浮力減少+落下による加速度+上流からの水の流入
 の影響でバランスが取れていることになる。

 浮力減少と落下、流入の影響は全くの仮定だが、比率を1:1:1 とした場合、 浮力減少は64kgとなる。
 この状態で水の浮力と泡混在との比 kを求めると
 
 k = 減少した浮力 / 水での浮力
   = 64 / 214
   = 0.30
 と極めて大きな率となる。 すなわち、水に対し1/3近くが泡で占められているということになる。

 以上から、2項の実験で求めた泡混在率 0.17は、あるホワイトウォーターの状態では有り得ると思われる。
 また、浮力減少を補いバランスするために舟は50mm程度更に沈むことになる。

  4 ホワイト・ウォーターでのライフジャケットの浮力

 「 カヌー科学館 No.1 浮力について 」 で、人間の比重は 0.92〜1.06といわれていることを示した。
 しかし、ホワイトウォーターで人体やライフジャケットも、泡の混在により浮力が減少する。

 2項の実験の結果 混在比 0.17と求められたが、
 体重 70kg、比重が最も小さいとして 0.92 の場合の浮力は
 70 x ( 1 − 0.92 ) = 5.6kgである。
 この浮力ではやっと顔面の 1/3 〜1/2ほどが空中に浮いていられる状況である。

 一般的な浮力8kgのライフジャケットを装着すると首から上が浮いていられる状況となる。

 ところが、3項のようなホワイトウォーターでは、泡による浮力減少が発生する。
 泡混在比 0.17では ( 体重70kg / 比重 0.92+ライフジャケット浮力 8kg )
 の体積 0.084立米 が全水没時、
 0.084 x 0.17 x 1000 = 14.3 kg 浮力が減少する。

 通常の水の浮力合計 5.6 + 8 =13.6 kgは 泡による浮力減少値 14.3kgの方が大きくなり、
 沈んでしまう状況となる。

 以前飛騨川飛水峡で激しい瀬を下る際にYさんから聞いた話で、浮力が減るために川の底を転がる状況も
有り得るというお話を聞いたのを鮮明に記憶している。
 その時には「 そんあことがあるのかな〜 」 と半信半疑だった。
 ある、経験豊かな超ベテランにその話をすると、そんな事は...と一蹴されてしまったが、
 今回の検討からすると、あり得ないことではないのを理解できた。

 当然そういう状況では水の流れによる粘性抵抗や、身体、PFDの段差部分の流れによる面圧なども加わるので
 なおさら実感として納得である。

 更に、実例として、富士川クラッシャーの瀬で、同行艇が沈し、流れが岸に当たっている部分を流され
 通過した瞬間、ボイルが湧いている目の前3mで艇のサイドに掴まっていたにも関わらず、水中に引き込まれ
 数秒間水没しているのを目撃した経験がある。
 これも瀬の落ち込み直後の泡と流体力の影響だったと合点がいく。

 ラフト用ライフジャケットは浮力 15kgのものが使用されているのも納得がいく。
 本考察により、ホワイトウォーターの浮力に対する影響が大きいことが理解でき、
 これまでフト疑問や気にあって入ることが実感と合致するようになった。
 

 

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