カヌー科学館

 No.3 流れにより 面の受ける力

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 1 カヌーと川の流れによる危険性

 流れにより受ける力の大きさは意外と大きいことが、よく水難事故に関連した実験としてテレビで放映される。
 定量の水を一定速度で流せる装置でレポーターが膝や腰までの流れで何処まで耐えられるかという実験である。

 カヌーで川を下る場合、流れの力を常に受けており、これを上手く利用することで楽に素早く漕艇出来る。
 反面、一つ間違うと流れの力で思わぬ危険に遭遇する。
 以下の危険性は、水の流れにより物体が押しつけられる力により発生する例である。

 (1) フット・エントラップ。

 川底の石の間に足が引っ掛かり、体への流れの力で倒され自力では起きあがれなくなる。
 頭部が水中のまま倒されることで即座に危険が迫る。

 (2) ブローチング。 いわゆる張り付き。

 岩や橋脚など、流れの中にある障害物にカヌーまたは人体が張り付き、流れに押されて剥がせなくなる。
 障害物とカヌーの間に体に挟まったり、押しつける水圧が大きいためカヌーが押し潰され、体も一緒に挟まれてしまう。 

 (3) ストレーナー。 直訳すると濾過器、ザル。

 水は通すが物体は通過させない障害物。
 倒木や竹、テトラポットなど思わぬ物がストレーナーを形成する。
 倒木や流木、流された竹などは岸から垂れ下がり、下流に向かって先端が水没していることが多い。
 万一その上流で沈し、流れがその下に向かうと体も流されていく。
 ストレーナーを避けきれず引っ掛かることで沈する可能性も高い。
 悪いことに、水没している先端に押され水中に引き込まれてしまう危険度が特に高い障害物である。
 テトラポットが複数あるとそれらの間を水が通り抜けるが、体やカヌーが吸い込まれ、押されて脱出できず水没。

 シーブも似たようなものだが、主に上流域のクリークで狭い岩に挟まる形状の中を流れている状態。
 私もクリークではないが、狩野川月ヶ瀬付近で丁度両側が岩の間にスッポリはまり、後から頭上を越え水が落ち
 危険を感じたので自ら水に飛び込んで逃れた経験がある。
 また北海道、南富良野のシーソラプチ川をガイドさん付きで下った際、スタート地点の部長の瀬は長方形の岩が並び、その間が落ち込みになっており、そこにはまり込む危険があるのでコースを外すよう事前にスカウティングし注意を受けた。
 危険の例題として載っていてもなかなか実感が湧かない物だが、経験すると恐ろしいのをしみじみ感ずる。

 (4) 水中捕捉物

 ストレーナーの一種とも言えるが、1本の杭や枝、針金でも引っ掛かれば流れに押され自力で抜けられない。

 ・ これらの障害物に捕らえられ、万一頭部が水中にあると、当然呼吸が出来ず重大な結果を引き起こす。
  普通は引っ掛かったら力を出して外したり脱出すれば良いのでは...
  と思いがちだが、流れの力はとてつもなく大きく脱出困難なのを知る必要がある。

 2 流れにより面の受ける力

 図1の左から右への速度 v で斜めの板に当たるとき 板に及ぼす力 f は

 f = ρ Q v sin θ

 で表される。

 ρ は 流体の密度、Qは流量、 v は流体の速度、θは流れに対する板の角度である。

 ρ =1000 [ kg/立方メートル ]
 Q [ 立方メートル/s ]
 v [ m/s ]


 力 f は 流体に押される力 Fr と、斜板を上に持ち上げる力 Ff に分解できる。

 Ff = f cos θ で求められる。

 図1 斜めの板に流れが当たるときの面の受ける力

 
 * 話は横道に逸れるが、上式により水の流れが当たる力を求めることが出来る。

 流れを受ける面を 0.8m x 2m、流れの速度を6km/hとすると、受ける力 f は 4.44トンにもなる。
 面が流れと直交している場合だが、それにしてもとてつもなく大きな力となりブローチングの恐ろしさを理解できる。

 ρ = 1000 [ kg/立方メートル ]
 Q = 0.8 x 2 x 6000 / 3600 = 2.67 [ 立方メートル/s ]
 v = 6000 / 3600 = 1.67 [ m/s ]

 f = ρ Q v sin θ
  = 1000 x 2.67 x 1.67 x 1
  = 4,444 [ kg ]

 両足の膝までが流れの中にある場合、流れから受ける力を求めてみる。

 膝までの長さ0.5m、 直径 0.1m、 2本、流れの速度を6km/hとすると

 f = 1000 x 0.5 x 0.1 x 1.67 x 0.5 *1) x 2本

   = 83.5 [ kg ]

 となり、大きな力が働くのが解る。

 *1)  足を円柱と近似し、半円の受ける分力 Σ sin θ は 1/2 のため。

 太股までの水深がある場合、この2倍以上となり到底立ってはいられない。

 本来はこの他の力として、面の粘性抵抗による力、後方の渦による吸引力も考慮する必要があるが
 簡単のため面の受ける力だけを求めた。
 
 

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